
ファッション全般 2016-03-14
学生の授業用に消化仕入れについて考えてみた
学生さんにSPAの説明をする際、「企画・製造・販売を一貫して手がける企業」と話しますが皆さんきょとんとします。その理由は、今やファッション業界ではSPAが当たり前だからそれが特別だと思わないのです。セレクトと名乗るショップも大手チェーンは自社ブランドが無いところの方がめずらしい。
グローバルSPAの台頭の中苦しんでいるのが百貨店です。百貨店にはたくさんのブランドが並んでいますが、心斎橋大丸に出店しているグッチはその他の百貨店に出店しているグッチとほとんど変わりません。その他のブランドもその百貨店にのみ出店するという訳ではなく、もちろん他の百貨店に出店しています。自前のブランドが無ければ百貨店はただのテナントと化し、差別化ができません。多少のMDの違いはここでは置いておいて、衣料品における百貨店の差別化要素は主に二つでしょう。
<差別化①>PB(プライベートブランド)の開発
いわゆる自社ブランドですね。
百貨店・ブランド、自前生産こだわり売る、三越伊勢丹HD、靴、潜在ニーズを発掘。
そごう・西武がフランス製PB「リミテッド エディション プティシック」を始動
百貨店独自のブランドを開発する事で、他店と差別化する。ただのテナントみたいな百貨店が増えている中、こういった取り組みは素晴らしいと思います。三越伊勢丹なんかはこのPBを今度は卸売りする事も視野に入れているらしく、新しい展望が見えますね。
<差別化②>自主編集売り場の強化
これはわかりやすく言うと、百貨店が自店のスペースに自前のセレクトショップを持つようなものです。百貨店にもバイヤーという職種の方がいらっしゃり、各ブランドの展示会に買い付けに行くという訳です。
ここでも有名なのは三越伊勢丹の「リスタイル」。僕もインポートブランドの卸をしていた際は、先方のバイヤーさんとやり取りしたものです。それ以外では阪急百貨店の「Dエディット」や高島屋の「スタイル&エディット」などなど。
セレクトショップが独自の編集力で他社と差別化するのと同じく、百貨店も自主編集売り場で差別化しようとする訳です。(セレクトは真の差別化にはならないという議論は置いておきます。)
消化仕入れが引き起こす弊害
百貨店には消化仕入れという取引きの形態があります。基本的に百貨店に出店しているショップの多くはブランドが運営しているという形ではなく、百貨店が運営しているという名目で運営されています。だからブランドの値札以外に百貨店の値札も付いています。しかし販売員はブランド側が雇用した人員を立たせています。そして売上のおよそ30パーセント前後(ブランドや百貨店によってまちまちですが)が百貨店側に支払われます。つまりざっくりと言い方悪く言いますと、
「人件費と在庫リスクはブランド側が持ち、売れた分のいくらかは百貨店がもらう」
といった形式です。これは過去、百貨店の集客力が強かった時代には当たり前でした。しかし、今や市場の中心は百貨店では無くなってきていますのでとっても不当な取引きに見えてしまいます。集客力のあるブランドなんかは百貨店側の取り分はかなり少ないそうですが。
百貨店によりますが、自主編集売り場の中の商品が「消化」や「委託」の場合が多く、百貨店側は在庫リスクを取らないケースがよく見られます。ちなみに百貨店側の取り分で言うと、商品を買い取った場合の「買取り」と、商品を預かり百貨店の販売員が売る「委託」と、先ほどの「消化」がありますが、
買取り>委託>消化
の順番。なのでノーリスクの消化仕入れは一番利益が少ないのです。百貨店の営業利益はとっても低いので、三越伊勢丹なんかは買取り商品の比率を上げ、自前の販売員を増やし利益率を上げようと努力しています。
大丸松坂屋との比較が出ていますね。消化仕入れが業務の効率化になるというのは自主編集売り場においては当てはまりません。
自主編集売り場で買取り以外の商品が並ぶとどうなるか。
<百貨店の販売員> 在庫リスクのある買取り商品を中心に販売。
<ブランド側の販売員> 自社ブランドしか売らない。
そして売り場は自由に編集がきかなくなり、ブランドで分断される売り場になりがちです。これでは本末転倒です。
三越伊勢丹や今回のそごう西武の自主編集売り場ではほとんどの商品が買取りのようですが、自主編集売り場に限ってはこれがゼロになる方が双方にとってメリットがあると思います。そしてその編集力を活かして、中小型店を他の商業施設に出店するケースまで。これもまた三越伊勢丹の取り組みですね。
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消化仕入れのままでは百貨店のECも成り立たない
ここ最近では百貨店が衣料品のECにも力を入れてきていますが、その商品の手当てはどうするのか。まさかここも在庫リスクを負わずに商品を借りて、売れなければブランド側に返すなんて事をしてしまうと商品が潤沢に揃わない可能性があります。ZOZOTOWNやAmazonならいざ知らず、まだECでそれほど集客力の無い百貨店にブランドがどこまで協力してくれるのか。そろそろ百貨店はこの消化仕入れを見直す時期に来ているのではないでしょうか。

WRITER
深地 雅也
株式会社StylePicks CEO。コンテンツマーケティングをメインに、ECサイト構築・運用・コンサルティング、ブランディング戦略立案、オウンドメディア構築、販促企画などをやってます。最近はODM・OEMメーカーのブランド設立支援、IT企業のアドバイザー、服飾専門学校講師、ライター業なども手がけてます。
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