
セールス 2019-02-25
ユニクロに学ぶ「値引き価格」の表示法とは
在庫処分店の店頭に立っていると、百分率の計算ができない人が数多く存在することに驚かされます。「定価から〇〇%オフ」という値札の表示をしていると、「これナンボになるの?」と尋ねてくる人が3割~4割いるというのが体感です。
この感想を漏らすと、よく「暗算するのがめんどくさいんじゃないの?」という答えが返ってきますが、接した感じでは「めんどくさい」のではなく「できない」のではないかと思わざるを得ないリアクションばかりです。
例えば「5990円の70%オフ」という表示があったとします。これを正確に暗算することは当方だってめんどくさいのですが、5990円は10円足すと6000円になるわけですから、「6000円の70%オフ」として計算すればニアリーな数値が一瞬で暗算できます。
6000円×0・3で1800円となります。実際にはそれより10円足りないわけだから、1800円弱ということになります。何も正確に数字を把握する必要はないから、だいたい1800円弱という数値がはじき出せれば、値段を検討する段階ではそれで事足りるわけです。
しかし、実際にはこの手法すら使おうとしません。使おうとしないのではなく、思いつきもしないように感じます。
この体験から導き出された結論が一つあります。
それは、各ブランドがバーゲン時にこぞって表示している「〇〇%引き」とか「〇〇割引き」という表示は実は、3割か4割くらいの人に理解されていないのではないかということです。
ここで原稿を書いている深地雅也さんは、以前にショッピングセンター内のテナント管理をしたことがあるそうですが、ショッピングセンターといえば「〇〇割引き」とか「〇〇%オフ」の表示のメッカです。しかし、深地さんによると、その際、少なからぬお客に「これナンボになるのん?」と尋ねられたそうです。
ここでふと思いついたのですが、低価格ブランドの代名詞ともなったユニクロですが、値引きセールを定期的に行うものの、一度も「〇〇%オフ」「〇〇割引き」と表示したことがありません。ジーユーも同様です。必ず、「2990円→1990円」という具合に表示しています。
以前は、「〇〇%オフの方が安さが伝わるのではないか」と考えていましたが、実際の店頭体験を経ると、ユニクロ・ジーユー式の表記の方が実は多くの人に伝わるのではないかと思えてきています。
たしかに「〇〇%オフ」とか「〇〇割引き」の方が、どれだけの割引率があるのかはわかりやすいと思います。正しく計算できれば、ですが。しかし、体感的に3割~4割の人が計算できないとなると、この表示は効果がないことになります。
それよりも、「1990円」「990円」と結論を表示した方が伝わりやすいのではないでしょうか。ですから、低価格ブランドの王者ともいえるユニクロ、ジーユーはいまだに「〇〇%オフ」という表示をしないのではないでしょうか。
2018年秋冬は暖冬に終わり、多くのブランドが一昨年の寒波の余韻を追って、防寒アウターを作りすぎて在庫を抱えて苦しんでいます。資金力に余裕があれば、今年の秋口まで不良在庫を寝かせておいてもよいでしょうが、余裕のない企業は投げ売りしてでも現金化すべきです。
その投げ売りが捗らないのは、実は「〇〇%オフ」という表示が伝わっていない部分があるからではないでしょうか。「3000円ぽっきり」とか「一律2000円」とかそういう表記にした方が安さが伝わるかもしれませんので、アパレル企業の幹部は一度検討してみてはどうでしょうか。

WRITER
南充浩
1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間20万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブロ(http://minamimitsuhiro.info/ )】
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1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間20万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブロ(http://minamimitsuhiro.info/ )】
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