ファッション全般  2019-05-06

自分の「強み」は自分ではなかなかわからない

人間は窮地に追い込まれると錯乱状態に陥って自分を見失います。
錯乱状態と言っても、ワーワーギャーギャー叫んでいるわけではありません。外見からはちょっと焦っている程度にしか見えないのです。
そして窮地に陥ると、自分の「強み」を見失ってしまいます。
 
3月末、某ファッション専門学校に正職員として30年近く雇用されてきた女性講師が突然解雇されました。この専門学校は以前から、かなり恣意的に講師や職員を解雇しているので、依然としてそういうブラック体質なのですが、長年専門学校講師しか経験のなかった人が今から新しい職を探さねばなりません。
年齢的にも他の企業に正社員として入社するのは難しいでしょう。
自分もかつて同じ立場になったことがありますから、その人の焦りや恐怖はよく理解できます。
顔見知りでもあるので、相談に乗りました。
 
焦りや恐怖で錯乱していたのでしょう。完全に自己の「強み」を見失っていて、退職金や貯金をつぎ込んで「スナックでも開こうかな」というのです。
これにはさすがに驚きました。尋ねてみると「お酒は飲めるけど、そこまで好きでも強いわけでもない」といいます。
好きでも強いわけでもない人がスナックを開いて儲けられるとは到底思えません。もし儲けられるようになったとしてもそれは何年も先のことになるでしょう。
 
これは個人の話ですが、似たようなことは企業でもあります。
企業と言っても所詮は個人の集まりですから、トップや経営陣が錯乱して「強み」を見失うことは珍しくありません。
今は交流がなく、昔交流があった製造加工業者がありました。
その会社は織りと染めが家業でした。何代目かの若社長は、新しい物好きということもあって、家業以外のことにも積極的に挑戦するタイプでした。
それは家業である織りと染めだけでは今後生き残れないという危機感だったのでしょう。
 
そのうちにだんだんと儲からない家業を縮小し始め、小売店や福祉施設などを運営するようになっていきました。
外野からはまあ、余技としてはいいんじゃないのかなと思って見ていましたが、ある時に、織りと染めをすべてやめてしまったのです。
現に知り合いの織布工場から「〇〇さんのところから織り機を〇台を譲り受けた」と当方にもお知らせがありました。
 
染めは大幅に縮小して継続していたようですが、浴槽も縮小し、人員も一人か二人に減らしてしまいました。
 
もう織りや染め屋としてはこの企業は終了してしまいました。
小売店や福祉施設で勝負することとなったのですが、若社長としては「儲かりにくい製造加工業をやめて、日銭が稼げる小売店や福祉施設運営の方が効率が良い」という考えだったのでしょうが、外野から見れば最大の強みだった織りと染めをなくしてしまって、しかも素人の余技に等しい小売店と福祉施設に特化するのは危険極まりないと映ります。
現に業界での評価は当方と同じでした。「あの企業は終わった」と見なされました。
 
現在、どうなっているのかはわかりません。なぜならウェブが1年以上も更新されていないからです。恐らく上手く行っていないのではないかと思います。なぜなら、順調なら年に何度かは更新されるはずです。まったく更新がないということは相当に厳しい状況にあるのではないかと思います。
 
繊維の製造加工業を続けるのは大変にしんどいことです。しかし、今から製造加工業に参入したいと言ってもなかなかできません。ですから、家業としてそれがあることは弱みでもありますが、同時に強みでもあったのです。今更、織りと染めを再興することは不可能です。織機も手放しましたし職人も手放しています。
実にもったいないことをしたと思います。
 
このように、自分の強みというのはなかなか自分ではわからないものです。見誤るとこのような決断をしてしまいがちになります。
 
現在、順風満帆な企業やブランドもいつこのような選択をしてしまうかもしれませんので、お気を付けください。
 

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南充浩
WRITER

1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間20万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブロ(http://minamimitsuhiro.info/ )】

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1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間20万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブロ(http://minamimitsuhiro.info/ )】

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