ブランド・ビジネス  2020-01-21

タキシードを着るのは非日常か?メンズブライダルが日本市場に根付かない理由

既婚者であるなら、タキシードに袖を通した経験は多くの方があるでしょう。

 

しかし”タキシードを今も継続的に着用している”という方は日本にはほとんどいないのではないでしょうか。そんなタキシードを扱うブライダル業界は年々減少傾向にあり、興味関心を持つ人間が少ないのも事実です。

 

そのような環境の中、「メンズブライダル」というニッチな領域で着実に売上を伸ばし、結果を残している企業が存在します。鍵となるキーワードは「セル化」。古い体質の業界にゲームチェンジを巻き起こす2社にフォーカスしてご紹介したいと思います。

 

〈守屋 友貴(Vogaro 商品開発本部 Director)〉

商品開発本部責任者。メンズアパレルメーカーでの販売・バイヤー・MDを経て、大型ファストファッションブランドの店舗マネジメントを担当。現在は商品提案に加え、販売員の商品知識習得やVMD構築などクライアントの販売力強化につながる研修を担当。

 

 

〈青山 和正(Vogaro 商品開発本部 Director)〉

レディースアパレルメーカーにて営業を経験。老舗和装メーカーの家系に生まれ、モノづくりに触れて育つ。現在は主に商品企画と提案を担当。各種リサーチによるトレンド分析とクライアントのブランドコンセプトを掛け合わせた商品企画により課題解決をサポート。

 

〈磯島貴史(株式会社トリート統括マネージャー/株式会社ティアラ取締役)〉

磯島貴史(株式会社ティアラ取締役 ) 岡山県のブライダルプロデュース会社である株式会社ティアラの取締役 。また、ブライダル業界に先駆けてメンズ商品のセル化に成功している株式会社トリート統括マネージャーも兼任している。 PITTI UOMOなどでのメンズ商品バイイングやブランドとの商品開発、店舗管理などを行っている。

 

 

未だ時代遅れな日本のメンズフォーマルスタイルについて

守屋:「まず大前提として、日本のメンズフォーマルは世界と比較すると大きく遅れているように感じますが、その大きな理由は何なのでしょうか?」

 

磯島:「やはり文化的な背景は大きな差ですね。日本は欧米と違い”パーティー文化”が無いです。平日だろうが週末だろうが、若者でもパーティーを開催するし、そこにはドレスコードが存在します。Instagramを見ていても、その差は顕著に現れてますね。」

 

守屋:「なるほど、そうなってくると一般の人の知識レベルにも大きな差が現れますね。」

 

磯島:「はい、そういった”知識の差”はお客様のタキシードの捉え方の随所に見て取れます。例えばタキシードに白スニーカーを合わしたりと、日本独自の着崩しを取り入れる人もいるのですが、誰も日本文化である和装にスニーカーなんて合わしたりしないでしょう。サイズ感が合っていない事もよくありますし、こういった部分を見ていてもやはり”時代遅れ”を感じずにはいられません。」

 

守屋:「正しい知識の啓蒙という部分では、ブライダルの販売員さんにも問題はあるのでしょうか?」

 

磯島:「ブライダル・ドレス業界ではそもそもメンズ販売員の数が圧倒的に少ないのです。更に輪をかけて、企業側も知識を持っていないので満足な研修をする事も難しい。しかし一番の問題は、お客様のリテラシーが上がってこないから、企業努力をしなくても事業が成り立ってしまっているところにあります。」

 

守屋:「やはりそこは、先ほどの”文化的背景”が問題でしょうか。」

 

磯島:「はい、欧米は大学の卒業式でも礼装しますから。日本では多くの人が、タキシードを着るのは結婚式が初めてではないでしょうか。」

 

守屋:「という事は、まず着用できる場所を作るところから始める必要がありますね。」

 

磯島:「それもありますが、企業努力で何とかできる部分もあります。タキシードの着用する機会は、もっと掘り起こせるものですから。」

 

 

ブライダルメンズ業界のセル化の流れについて

青山:「確かに、現状のブライダル業界はレンタル主体ですが、トリートさんはセル化(販売)で成功されてますね。どういった秘策があるのでしょうか?」

 

磯島:「根本はお客様に誠実な価格設定をしたいというところから生まれています。レンタルを廃止したい訳ではないのですが、そもそもセルの選択肢が無いのは不誠実だと思うんです。セルとレンタルの選択肢があった上で、お客様にとってレンタルが安くて望ましいのであればそれでいいのではないかと。」

 

青山:「単純な価格で見るとレンタルの方が安く済みますし、着用する機会が少ないほど、買う(セル)必要性は少なくなってきますよね。」

 

磯島:「仰る通りです。ですから弊社では”タキシードを着る意味”をお客様にしっかり理解してもらうよう心がけています。それにはまず”身だしなみ”と”ファッション”の違いについて理解する必要がある。身だしなみは必要最低限、その場にいる相手の事を考えないといけません。だからこそ”礼装”にはたくさんのルールが設けられ、失礼でない服装を徹底するのです。」

 

青山:「そういった礼装のルールって本当、一般に浸透していませんよね。お客様にそれを知ってもらう事は、ブライダル業界に限らず非常に大きな意味あります。」

 

磯島:「その通りです。例えば部下や後輩がたくさんいらっしゃる方の場合、部下が結婚式を挙げる時にはもちろん主賓卓に座るでしょう。その時に、ビジネススーツで行くのはちょっと違うと思うんです。特に役職がある場合、”部下がどう見られるか”を一番に考えないといけない。それが身だしなみであり、男性の嗜みです。このように、タキシードは結婚式のためだけにある訳ではないですから、その後に使うことも考えた上でお勧めしています。

 

青山:「タキシードをお持ちだとこういったシーンでもお使い頂けますよ、という啓蒙は身だしなみを考える上で本当に為になる情報ですね。」

 

磯島:「はい、そこの理解が深まると、今度はシャツやチーフやネクタイも必要になりますし、雑貨類はもっとデイリーに使うアイテムなので、”買った方がお得”という事が理解して頂きやすいのです。あくまで「タキシード = 結婚式」という捉え方は全くせず、お客様の価値観に影響を与える事が大切なんです。」

 

青山:「トリートさんような成功事例を見て、ブライダル業界でも一部、セル化の流れが起こっているのも事実ですね。」

 

磯島:「そもそも、海外ではレンタルなんてほとんど見かけませんからね。レンタル文化は和装の貸衣装が起源になっていると推測しています。しかし、外側だけ真似ても、本当にお客様に対して誠実に向き合わないとセルでもレンタルでも継続して上手くいく事は無いでしょうね。」

 

 

業界で先駆けてメンズ用品の買取販売式に成功しているトリートの取り組み

守屋:「では、業界全体がセル化にいく訳では無いのでしょうか?」

 

磯島:「単価は間違いなくあげれます。ですが、結婚式全体に価値が無いとジャッジしているお客様が多いですからね。業界がそう思わせてしまった節があるから、それを改善していかなければなりません。お客様に誠実に向き合えば絶対良い結婚式ができますし、それは現場の人間にしかできない事です。いきなり大きくは変わらないから、ちょっとずつしか進まないでしょうけど。」

 

守屋:「結婚式がタシキードと触れる最初の起点になりやすいのは変わりませんしね。そこから広げていくといったイメージでしょうか?」

 

磯島:「結婚式でも提案するのはタキシードだけとは限りませんからね。どんな商品を提案できるのか?以外にも、結婚式の付加価値は何なのか?を問い続ける事は重要ですよ。衣装だけでなくお料理なんかも含まれます。」

 

守屋:「結婚式という一つのシーンをブラッシュアップする事によって、タキシードの付加価値も上がりますね。礼装のルールの啓蒙だけでなく、シーンを提案していくというのはアパレルの販売とも通づるところがありますね。」

 

磯島「そうですね、ですから弊社にはアパレル出身者も転職してきたりしています。セル化はブライダルの価値をあげる1要素ですから、そこを軸に”用途”であったり”シーン”を提案していく事は、本来あるべき姿だと思っています。とは言え、お客様の選択肢を狭める事はしたくありませんから、レンタルという選択肢はもちろん残していますよ。」

 

守屋:「こういった取り組みを強化して結果、どの程度セル化に成功したのでしょうか?」

 

磯島:「小物に関しては、全てセルですね。衣料品に関しては、過去半年で20着程度しか売れてなかったんですが、今では半年で300着ほど売れるようになりました。特別なからくりはありませんし、商品構成も全く変わってません。実行したのは、”販売員の身だしなみを気をつける”事と”接客レベルの向上”のみです。特に販売員の意識改革によってセルが伸びましたね。」

 

守屋:「具体的な取り組みとしてはどのような事が挙げられますか?」

 

磯島:「販売員研修を強化した、という事もあるのですが、特に効果的だったのは、お客様が会場選びの段階からタキシードのお話を差し込むのが良かったですね。段階を経てお客様に対する啓蒙や意識づけを徹底できれば効果は大きく変わってきます。ですから、プランナーに対しても勉強会を行いました。この時点で、オーダータキシードに対する理解があると、来店された時に購入に至る確率が大きく変わるのです。」

 

守屋:「まさに、セルの価値がお客様に伝わった瞬間ですね。素晴らしいです。」

 

磯島:「キーエンスでは”売上とは何か?”の問いに対して、”お客様が価値を感じてもらった分が売上である。”と定義されています。単純に「レンタルより購入された方が将来的に使う場合、お得ですよ」という事よりも「これを着用したら今後の人生のあらゆるシーンが光り輝いて見えたり、より有意義なものになるんです。」という付加価値を提案する事が我々にとっての売上なんです。」

 

守屋:「まさに磯島さんが冒頭よりお話されている”お客様と誠実に向き合う”が実践されていますね。」

 

磯島:「我々もまだ突き詰めている途中ではありますが、タキシードでも何でも、メルカリに出る売り方は「価値が伝わっていない」結果と捉えています。もちろん自戒を込めて。」

 

 

Vogaroの商品開発

磯島:「ちょっと逆に質問してもいいですか?レンタルが蔓延るブライダル業界において、Vogaroさんのように品質にこだわるOEM事業者も少ないと思うんですが、何故そのような動きをされているんでしょうか?」

 

青山:「私も守屋も、元アパレル出身だからというのはありますね。アパレル出身者って物を見慣れているせいか、こだわりが強くなります。従来のブライダル業界の品質やファッション感度を見た時に、このままではいけないと思った事がきっかけと言っていいかもしれません。我々だからこそ提供できる製品は確実にありますから。」

 

磯島:「それはよくわかります。我々のショップでもラルディーニやエドワードグリーンのように、ファッションが好きな方に喜ばれる製品を取り扱っている事もあってアパレル出身者が転職してきますから。」

 

青山:「物に対する解像度が高くなると、ファッション感度のみならず、品質に対してもこだわりが出てくるものです。そういった感覚はきっと一部のお客様の中にもありますが、女性が主役のブライダル業界ではメンズウェアは軽視されがちです。そこのニーズを取りにはいっていますね。」

 

磯島:「確かにブライダル業界は製品を作る際、ブライダル専門の工場を使うのが通例です。Vogaroさんではそこからちょっと違いますよね。」

 

青山:「はい、我々が使う工場は基本的にはアパレル製品を作っている工場を起用しています。ブライダル製品の多くはポリエステル100%の物が多かったりしますが、品質にこだわり、シルク100%の生地を使いたい場合、アパレル専門の工場でないと中々受け付けてくれません。傷つきやすいサテンも専用の織り機を使って生産していますし、物作りへのこだわりは製品の細部に出ているかとは思いますね。」

 

磯島:「素晴らしい取り組みだと思います。お客様に誠実に向き合おうと思っても、肝心の生産の部分でクオリティが上がらなければ意味がありませんからね。」

 

青山:「先述しましたように、ブライダルはまだまだ女性が主役ですが、お客様と本当に向き合うなら”2人で並んでどう見えるか”が重要なはずです。その為にも、メンズのファッション感度や品質を業界全体で上げていきたいですし、そのお手伝いが弊社でできれば一番嬉しいですね。アパレル出身という事もあって、販売研修やVMD指南、商品開発のアドバイスなどを手がけれるのも強みの一つだと自負しています。」

 

磯島:「仰る通りですね。女性のドレスは年々アップデートが見られるのに対し、メンズの進化が遅すぎる印象は強いです。製造から販売まで、メンズブライダルをサポートできる仕組みがあれば業界に変化をもたらす事は可能でしょう。いつまでもお客様のせいにして変化しないのではなく、お客様に価値を伝えて変化していける取り組みをしたいものですね。」

 

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深地 雅也
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