
繊維の基礎知識 2020-09-14
マーセライズ加工とシルケット加工は同じ
ここでは、繊維の基礎知識を、ときどきサボりながら、順不同で紹介しています。
繊維の知識というのは極めて膨大で、これをすべて習得した人はいないと思います。織物(布帛)のことを極めたとしても、編み物のことまでは手が回りませんし、その逆も同様です。
ですので、ここで紹介する基礎知識は極めて、広く浅くという形になります。いわば「入門編」みたいなものです。
しかし、この「入門編」を知っているのと知らないのとでは、洋服に携わる業務では大きな差になると思います。
そんなわけで今回は、呼び名は違うが同じことを指している用語について思いつくままにいくつかご紹介したいと思います。
まず、マーセライズ加工とシルケット加工です。
販売員の皆さんも名前くらいは聞いたことがあるのではないかと思います。
そういえば、ジーユーでもマーセライズ加工Tシャツが販売されていました。ですから販売員でも「加工のことは関係ない」とは言えないのです。
アダストリアの商品は加工名や生地名がそのまま商品名になっていますから、本来は販売員もその意味がわかっておく必要があるのです。
さて、マーセライズ加工とシルケット加工ですが、はっきりいうと、両者は同じ加工です。単に呼び名が違うだけです。
綿繊維を引っ張りながら苛性ソーダに水溶液に漬けるという方法で加工を施します。
個人的な体験だけでいうと、生地関係の会社は「シルケット加工」と呼ぶことが多いような気がします。
いろいろな生地問屋、生地工場、紡績などの会社を訪問したことがありますが、そのほとんどで「シルケット加工」と呼んでいました。
多分、マーセライズよりシルケットの方が発音しやすいからなのではないかと思います。
この加工を施すと、生地に光沢が出て滑らかな手触りになります。シルクのような光沢と滑らかさなのでシルケットと呼びます。
シルクっぽい光沢と手触りなので、逆に粗野な風合いが求められる生地には使用できません。
次に、思いつくのがカツラギとツイルです。
同じ色の経糸と緯糸を使った綾織りをツイルと呼びます。
その昔、まだ僕がジーンズの販売を行っていた26年くらい前、ラングラーやボブソンなどのジーンズの商品名には「カツラギ」が使われていました。
カツラギという名前を覚えたのはその時です。
個人的な感覚ですが、同じ綾織りでもデニムとツイルはちょっと違うように感じます。
デニムというと、多くの人はちょっと厚手のあの生地を思い浮かべます。
一方、いろいろなブランドの商品を見てもらいたいのですが、ツイルと表記されている商品の生地は厚さがバラバラではないでしょうか。
分厚いのもあれば薄いのもある。という感じです。
ラングラーやボブソンでは、主に「カラーパンツ」と呼ばれる商品にカツラギが使われていました。のっぺりとした黒いパンツなんかはカツラギでした。
そのことからもわかるようにツイルの中でも厚手の物を指して「カツラギ」と呼ぶ場合があります。
海外では薄くても分厚くても同じツイルと呼びます。
ここが同じ綾織りでもデニムとツイルの違うところではないかと感じています。
もちろんデニムにもライトオンスデニムという薄手生地がありますが、わざわざ「ライトオンス」と区別して呼んでいるという点を考えると、やっぱり扱い方が違うのだと思います。
その理由としては、デニムは基本的に10番手の太さの綿糸が使われるとされていますが、ツイルにその部分の定義はありません。
太い糸を使おうが細い糸を使おうが構わないのです。
そうすると必然的に厚手から薄手までのツイルが出来上がることになります。
これら以外にも、同じことに対して異なる名称が業界には存在しますので、ご注意ください。
そうですね、もうすぐ秋のお彼岸ですが、秋のお彼岸に売り出される和菓子には「おはぎ」があります。これは春のお彼岸では「ぼた餅」と呼びます。
ちなみに夏は「夜船」、冬は「北窓」と呼びます。
同じ物を違う名前で呼ぶというのは、こんな感じでイメージすれば、その理不尽さにも腹が立たないのではないでしょうか。

WRITER
南充浩
1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間20万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブロ(http://minamimitsuhiro.info/ )】
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1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間20万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブロ(http://minamimitsuhiro.info/ )】
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