
ECディレクターの為の教科書 2020-09-18
ECにおける実店舗の活用法
ECは実店舗より販管費が低く、利益率が上がりやすい。そんなお話が数年前から業界でも取り沙汰され、多くの企業がECに徐々にシフトしてきました。コロナの影響でその勢いは加速し、大手アパレルでも「EC化率50%を目指す」と宣言していますね。ベイクルーズやナノユニバースのような有名企業・セレクトショップのEC化率が40%近くに伸びてきており、このような動向は特に珍しくなくなってきました。
だからと言って、単純に実店舗を減らしてECを増やす施策が良いかどうかはよく考えなければなりません。それはブランド属性によってECと実店舗の活用方法が大きく異なるからです。特に実店舗を活用しやすい点で言いますと下記になりますでしょうか。
①指名検索を発生させる
指名検索数を増やしたい時、Webで完結するような施策ばかり考えていませんか?もちろん、Web施策で指名検索を増やす事は不可能ではありません。インスタライブやTwitterによる拡散など、筆者が過去計測した中でもソーシャル施策は特に指名検索増加に寄与するケースが多く見られます。
しかし、ブランドの属性や段階においては機能しづらい場合もあります。ブランドの初期フェーズであったり、ターゲットユーザーの年齢層がやや高かったりと、その理由は様々。そんなブランドでも唯一、指名検索をすぐ生み出す方法があります。それが実店舗の接客です。
・ブランド名を覚えてもらう
こちらの項目にも記載しておりますが、実店舗に来店されるお客様の中には、ブランド名を知らないままフラッと入ってくる方がたくさんいらっしゃいます。その方々に、ブランド名だけでも覚えて帰ってもらえるように接客しましょう。読みにくいブランドであれば、読み方を覚えてもらえないと検索なんてしてもらえません。また、間違った読み方で検索されると、正しくデータ検証できない場合もあります。しっかりと接客が出来た後は、帰りがけにショップカードもお渡ししましょう。お買い上げに繋がらなくとも、名前を覚えて頂ければ、後々検索流入から再来店に繋がる可能性もあります。初期フェーズは無理にECで販売しようとせず、Web活用も店頭送客に力をいれましょう。常設店が無いのでしたらポップアップショップにて同様の取り組みが求められます。今も昔も、結局「認知」に一番強いのは店舗なのです。
②ECの会員数を増やす
ECの会員を増やす為にクーポンを付与して登録を促進したり、またそれをソーシャルで拡散したりとWebで完結する事ばかり考えがちですが、こちらも実店舗を活用する事で効率を上げる事が可能です。会員カードを発行したり、アプリに登録してもらったり、といった取り組みをしているブランドなら尚更ですね。お買い上げ時に登録のメリットをお伝えして、登録を促進しましょう。
以前書いたように、特典がしっかり設計されていますと登録してもらえる可能性が上がります。ECサイトでも実店舗でも関わってくる事なので、会員特典は非常に重要なポイントなのがよくわかりますね。
カードやアプリが無い場合は、お買い上げ時にLINEアカウントの登録を促進しましょう。特に百貨店に出店している場合、百貨店側はECへの送客を非常に嫌うのですが、LINEアカウントであればまだ監視が緩く、登録のハードルが高くありません。LINEアカウントの友だちに登録さえしてもらえれば、その後、ECサイトへの誘導が容易になります。会員特典のプッシュから新商品入荷のお知らせ、サイトコンテンツ更新の告知など、接触頻度を高めて顧客に育成していきましょう。
③ECのサービスを補完
ECを頻繁に利用する方でも、実店舗と連携したサービスをよく使う人はいらっしゃるでしょう。例えば、
・試着(ショールーミング含む)
EC上で試着予約を取り付け、店頭にて試着。ECは買い上げ率の向上に、実店舗は集客として効果がありますね。
・店頭受け取り
店舗数が多いブランドであれば、店頭受け取りを可能にする事で送料が発生しません。ECの荷造運搬費は必須のコストとは言え、販管費の多くを占めます。多店舗展開できているブランドにとって店頭受け取りは大きな強みなのです。顧客側としても、自宅で受け取りとなるとその時間には仕事で帰れなかったりと、宅配時間の問題が解決されるので双方にとってメリットが大きいサービスですね。
・店頭接客をWebコンテンツに落とし込む
今流行りのスタッフコーデページも、結局は店頭があり、スタッフがたくさんいるからこそ成り立つサービスです。店頭接客はまだECに十分に落とし込まれていませんので、ここは大きな課題でしょう。店頭を削る事によって、ECのコンテンツがそれだけ削られていくという事は理解しておいた方が良いでしょう。
上記がわかりやすい実店舗のメリットでしょうか。もちろん、「不採算店舗でも存続させろ!」と言う訳ではありません。ブランドの今の実力を無視して、古くから踏襲される多店舗展開による売上増加施策を採り続けたせいで、必要の無い店舗まで作られている事は否定のしようがありません。しかし、ECに偏重するあまり、実店舗のメリットを考えずに閉鎖していくと、ブランド全体の利益が損なわれるかもしれませんし、下手をするとECにさえ悪影響を及ぼす可能性がある事は理解して頂きたく思います。

WRITER
深地 雅也
株式会社StylePicks CEO。コンテンツマーケティングをメインに、ECサイト構築・運用・コンサルティング、ブランディング戦略立案、オウンドメディア構築、販促企画などをやってます。最近はODM・OEMメーカーのブランド設立支援、IT企業のアドバイザー、服飾専門学校講師、ライター業なども手がけてます。
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