繊維の基礎知識  2021-01-19

ホールガーメントを巡る「嘘」と「誤解」

ユニクロが使用することで最近一気に知名度を高めたのが「ホールガーメント」という編み機です。

和歌山に本社を置く、島精機製作所が開発した編み機です。糸を仕掛けて、プログラムを入力すると、それ以降は全自動で一体成型のセーターが完成するという編み機です。

ですが、このホールガーメントを巡るメディアの報道や、業界の理解、ファッショニスタの解説には多くの「嘘」と「誤解」が含まれています。

 

今回はその「嘘」と「誤解」を見てみたいと思います。

先日、大手マスコミの記事がYahoo!のトップニュースに転載されていました。そこには「アパレルの新技術」として「ホールガーメント」が紹介されていたのですが、のうのうと「新開発された」と書かれていたのです。しかし、これは完全な誤りです。ホールガーメント編み機は20年くらい前からすでに存在しています。

また、すでに多くのブランドが導入しており、例えば、2010年ごろにはジムという老舗セーターメーカーのホールガーメントセーターをジーンズメイトが仕入れて販売していました。物を知らない人気ファッションブロガーが「ホールガーメントセーターは高額品」というようなことを書いていますが、ジムから仕入れてジーンズメイトが販売していたホールガーメントセーターは定価5900円くらいでした。

たしかにホールガーメント編み機は通常の編み機に比べて高いと言われますが、製造するセーターが高くなるという理屈は合いません。セーターの価格は使用する糸の材質とその値段、生産する数量、手のかかるデザインかどうか、ということで決まります。

 

また、多くのメディアや物を知らないファッショニスタが

「ホールガーメントは縫い目がない一体成型だからゴワつきがない。着心地がイイ」

と言いますが、普通のセーターを着ていて縫い目がゴワついたという経験のある人がどれほどいるでしょうか?自分はかれこれ40年くらいセーターを着ていますが「ゴワついた」と感じたことはありません。

また、セーターを着る際にはシャツかTシャツの上から着るので、縫い目が肌に触れて着心地が悪いと感じたことはありません。「着心地がイイ」と言っている人はいつもセーターを素肌に着ているのでしょうか?

 

次に多いのが

「縫い目がないのでシルエットが美しい」「縫い目がないのでフィット感がある」

というものですが、これも非常に不可解です。

 

シルエットは縫い目の有る無しで決まるのではなく、パターンで決まります。パターンが美しければ縫い目があろうとなかろうとほとんど変わりません。逆に、今、ユニクロにはホールガーメントで編んだセーターが一部に差し込まれていますが、これをキチンと区別して判別できている消費者がどれほどいるでしょうか?

セーターのシルエットなんて、細くも太くもパターンによって自在に変えられます。通常のセーターでもピタピタのシルエットにすることはできますし、オーバーサイズ・ルーズサイズをホールガーメントで編むこともできます。一体何を言っているのでしょうか?

 

フィット感があるという言説に至っては論外です。

セーターと言っても、トレンドやブランドの性格によってシルエットは千差万別です。ピタピタのセーターもありますし、ダボっとしたセーターもあります。

ダボっとしたセーターをホールガーメントで編んだときにどこにフィット感があるのでしょうか?全く理解不能です。

 

強調するほどのフィット感をセーターに求めている人がどれほどいるのでしょうか?レオタードと間違えていませんか?

現在のような「嘘」や「誤解」が蔓延することは、ホールガーメントにとっては何一つためにはなりません。

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南充浩
WRITER

1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間20万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブロ(http://minamimitsuhiro.info/ )】

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1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間20万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシヤルブロ(http://minamimitsuhiro.info/ )】

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