(最終回)セール価格は適当に決めたらダメ!

(最終回)セール価格は適当に決めたらダメ!

(最終回)セール価格は適当に決めたらダメ!

今回の記事で、”アパレルMDの為の教科書”最終回です。前回で、一通りマーチャンダイザーが覚えるべき数字面の仕事のことは書き終えましたので、MDの実務に役立ちそうな内容を記事に致しました。皆様。是非ご覧くださいm(__)m

この春夏商戦。必要以上に値引きしすぎたのでは?

今回のコロナ禍の影響。とくに4月から5月にかけての緊急事態宣言による店舗営業休止の影響で、殆どのアパレル小売業が、この春夏商品のセール施策による在庫削減を余儀なくされました。このことで、各社の損益にも多大な悪影響を及ぼしています。

しかしながら、各社の決算関連書類を読むと、中には、”いくらなんでも、セール(値引き)しすぎでねえか?”という企業も散見されます。(詳しくは、以下の記事で触れています)

https://msmd.jp/archives/4844

このことをもっと詳しく説明すると。。。

"店頭で70%OFFして売っている商品のOFF率は65%でも良かったのではないか?"

"60%OFFは50%OFFでも売れていたのではないか?"”2BUY10%は本当に必要だったの?”

このことです。

このセール価格の設定は、ある程度の根拠を持って設定することができれば、必要以上のOFFで売上・粗利益を喪失する可能性が少なくなります。そのことが、組織の損益に与える影響は軽微ではない!ということを、価格決定権限を有するマーチャンダイザーは踏まえなければなりません。 

何故に、値引きしすぎてしまうのか?

何故、上記したような”値引きをしすぎる”といった現象が起こるのでしょうか?
それは。。。

”目先の在庫金額(数量)ばかりを気にして、適当にセール価格(OFF率)の設定をするから”

このことです。

特に、今回の春夏商戦は、コロナ禍の影響で在庫がだぶつくのが目に見えていましたから、このような現象が多く起きているのだと思います。

また、このことは今回のコロナ禍の影響等は関係なく、OFF率のルールが、70・50・40・30%と使える数字が決まっているからとか、なんとなくクリスタルな感覚だけの値付けでセール価格を設定してきたとか、そのような組織が未だに多いのでは?と思われます。

必要以上の値引きをしない為には、どのようなことが必要なのか?

では、”(セール時)に必要以上の値引きをしないようにするためには、どのようなことを意識した良いのか?”と言いますと。それは。。。

”先の売上を予測し(見通し)、在庫ターゲットだけではなく、粗利率のターゲットを設定すること!”このことになります。

これらのことを順を追って簡単に説明致しますと。

① 先の売上を予測する(先の売上の見通しを算出する)

→これは、まだ店舗をオープンしたばかり、外的要因に大きく左右される(今回のコロナ禍はそのケース)ような店舗ですと、先の売上の見通しは立てづらいのですが、長年出店している店舗。分母が大きい組織の売上予測は、過去データ等を活用すれば、それほど大きなズレがなく、先の売上見通しを立てられます。このことがまず必要となります。
(精度の高い売上予測を出すには、MD予算をしっかりと設計しておくこと、単品ごとに先の売上シミュレーションを出す等の方法がある。更に併用するともっと精度があがる)

② 在庫金額ターゲットを定める

→これはどこの組織も実践していることだと思います。但し、春夏商品・秋商品の端境期だとか、定番品と呼ばれる商品在庫が多い等、ややこしい側面もあります。このブログでもいつも記載していますが、在庫の質がすぐにわかるルール設定。ということをしていおけば、そのことだけでリスクヘッジとなります。

③ 粗利率のターゲットを定める

①②が終了したら、売上高を鑑みながら、”粗利益率のターゲットを設定し、最低限必要な粗利益高の目標を定める!”このことが重要です。常々、私は”(MDの仕事の成果は)売上だけでなく粗利益高が重要!”ということを訴えていますから、このことが重要となるわけです。そして、①②③が定まると、売上原価高も同時に算出さます。

そのことで、上記の目標に達する必要な売上原価。ある意味、売上点数の目安がわかるわけです。
また同時に、組織の値入率が把握できていれば、値入率と粗利率の差から、上記の目標数値に達するためのOFF率(値引き・割引率)が算出出来ます。このことができれば、前準備が整うということになります。私が常々こちらの連載で、

“値入率65%の商品がセールして売れた結果、粗利率が50%になった。この商品のOFF率は何%になりますか?”

このような問題を連載でよく出題しているのは、上記のようなケースで必要となるからです。

架空の組織を基に、セール価格設定を考えてみよう!

ここからは簡単な例を用い、セール価格決定までにすべきことを、できるだけ皆様にわかりやすくお伝えしていこうと思います。ですが、流石に文章で細かいことまでお伝えするのは、中々難しいことですし、個々の組織で、状況も違うことだと思いますので、あくまでご参考程度の手段である!と捉えて頂ければ幸いですm(__)m

今回のある架空の組織の数字を例にお伝えしていきます。ある組織の前提条件を以下、皆様にお伝えしますと。。。

① 現在は、6月10日前後。売れていないので、店頭一部セール実施済。
② 今回は春夏商品のみで表を作成。商品の仕入原価率は35%
③ 6月~8月の売上予測は過去データ等を基に算出。期首在庫原価は1,000万円。6月に仕入原価500万入荷予定。
④ 春夏商品なので、目標は8月末に在庫を0にすることが目標。
(在庫が多すぎて0目標を立てるのが無理!という組織も多くあるでしょうが、今回はご容赦ください)

このことを条件に、この組織のMDは下記の図を作成し、各月の粗利率ターゲットを算出しました。

(*各月の売上予測・粗利率ターゲット・在庫金額は、表で確認してくださいm(__)m)

この表の各月の粗利率のターゲットから、各月のOFF率を算出すると。
6月22.2% 7月41.7% 8月57.6%と、このように月ごとのOFF率の目安が出てきます。これで、各商品のセール価格を設定する!という前準備が完了します。 

セール価格決定までの手順

ここから、各商品のセール価格決定までの手順をお伝えすると。

1. 6月の売上シミュレーションを単品ごとに行い、6月時点末在庫数の予測を算出
2. 6月末の在庫数と6月売上点数を基に、在庫消化日数等を算出
3. 在庫消化日数や商品そのものの位置づけ(特に6月入荷商品)を基に商品をランク分けし、価格を決定
4. ランクに応じ、商品単品ごとに7月の売上・在庫シミレーションを行う

このような順番で、セール価格の決定をしていきます。上記の項目で注意すべき点を以下述べていきます。

1. 6月の売上シミュレーションを単品ごとに行い、6月時点末在庫数の予測を算出

→まずは、商品品番数が多いが組織は、単品ごとに売上シミュレーションを行う!ということが困難である筈です。ですが、このブログでもいつもお伝えしているように、在庫の質を見極めるルールが、しっかりとなされていれば、困難さが軽減される!ということを覚えておきましょう。

このことで重要なのは?過去データの傾向・癖をしっかりと活用することです。手法は、私の別の連載の”商品の追加発注はどうしたら良いの?”という手法と基本的に考え方は、同じになりますので、下記参照してください。(今回のシミュレーションは、6月10日前後という設定ですから、ある程度精度の高い6月の売上シミュレーションが可能な筈です)

2. 6月末の在庫数と6月売上点数を基に、在庫消化日数等を算出

→上記のシミュレーションが終わりましたら、6月の予測売上数。6月末の時点在庫数を基に、在庫消化日数を算出します。以下、数例を上げますと。。。

・商品① 6月の予測売上数100点。6月時点在庫数300点。300÷(100÷31)≒93日
・商品② 6月の予測売上数300点。6月時点在庫数200点。200÷(300÷31)≒20.7日
・商品③ 6月の予測売上数500点。6月時点在庫数700点。700÷(500÷31)≒43.4日

このように、算出していきます。(但し、ホントのことをいうと、在庫消化日数の平均売上数の算出には注意が必要です。下記の記事で確認してください)

3. 在庫消化日数や商品そのものの位置づけ(特に6月入荷商品)を基に商品をランク分けし、価格を決定

1.2.の過程を経て、各商品の在庫消化日数を算出できましたら、その在庫消化日数に応じて、在庫をランクするわけする作業を行っていきます。

今回のシミュレーションでは、春夏商品を8月末日で完売させることが目標でしたから、このことを踏まえ上記の商品をチェックしてみると、商品①は今の売上ペースでは、8月末に売切るのは不可能そうです。逆に商品②は、7月中旬には、商品が可能性がなくなる可能性があります。商品③は商品②より、6月の売上数量は多いのですが、在庫がまだ豊富?にあり、7月中で商品がなくなることはなさそうです。これを基に、商品のセール価格を設定するということになります。

例としては、商品①を40%OFF(粗利42%)商品②を20%(粗利56.3%)OFF(粗利50%)商品③を30%OFF(粗利50%)等と決めていきます。また、6月入荷商品は、まだ売ってまもない商品ですから、別の考えをしなければならないでしょう。

この時に、特に注意してほしいのが、

最初に決めた粗利率ターゲットが達成できるような値付けをするのではなく、ターゲットの粗利率よりも高くなるような、セール価格を設定する!

という点です。特に、商品③(商品②よりも6月の売上数が良いので、30%OFFもする必要はない)のような店でVP(売れる場所)に置かれる可能性が高い商品等は、%オフではなく指定上代を設定し、顧客の心理に訴求しながら、粗利を出来るだけ高く獲得する努力をするといった姿勢が重要です。

更にもう一つ値付けする際に、注意してほしい点があります。

商品②の場合は、在庫数が商品③の半分以下です。6月の売上予測数が、商品③より少ないですから、SKU欠けが発生している可能性が高いといえます。そのような場合、売りづらい色・サイズばかりが残っている可能性が高いですから、もう少しOFF率の設定を上げた方が良い?と注意しなければなりません。

4. ランクに応じ、商品単品ごとに7月の売上・在庫シミュレーションを行う

各在庫のランク付けが終わり、各商品のセール価格が決まったところで、次は、商品単品ごとに7・8月の売上シミレーションを行っていきます。(セール時の)売上シミュレーションの方法に関しましては、私の”商品の追加発注”に関する過去記事をご覧くださいm(__)m

7・8月の売上シミュレーションを行うと、最初に行った売上・粗利益が予測・ターゲットとズレてくる筈です。(7月売上1,200万。粗利率40% 8月売上400万。粗利率17.5%)

(上記の図はあくまで参考です)

これで、一連の作業は完了です。 

最後に

しかしながら、当然のことですが、売上シミュレーション通りに事が運ぶわけではありません。ですから、現場の状況に注視ながら、予定より消化の悪い商品があれば、スピーディーに値下げを実践してください。ですが、何度も現場(店頭・EC)に値下げ指示をしていると、現場が疲弊しますので、そのことを憂慮するのは当然のことです。

今回、長々とお伝えしたセール価格決定までの流れは、あくまで手段の一つです。おそらく、他にもっと良い方法はあるでしょうし、今後、売上シミュレーションはAI等のテクノロジーの力でその精度が高くなるでしょう。そして、セール価格決定までの流れは、組織によってその手段は相対的に変わってくる筈です。

また、このことを文章で伝えるには、私の力が足りない点がまだまだあります。ですが、闇雲にセール価格を決定することによる、組織に対するデメリットは、今回詳しくお伝えいたしました。今回のブログが少しでも、皆様方のお役に立てれば幸いです。